副社長は溺愛御曹司
他の何がなくとも、秘書に求められる最優先の技能は。
秘密を守れることだ。
役員が誰と会っていただの、いつどこの会社の人と約束があるだの、そういう情報は、そのまま超一級の機密に直結している。
社内にすら漏らしてはならず、私たち秘書は全員、着任時に守秘義務の誓約書にサインをしている。
義務を怠れば、免職にされたって文句は言えないのだ。
もっと言えば、役員のくせや、彼らに関するちょっとした出来事なども守秘項目に該当する。
どこからどんなふうに噂が回って、彼らの評価に影響するかわからないからだ。
そんなポジションに、ちょっと資格があるだけの新人を置くのもどうかと思うけど。
幸い、私は口が軽いほうではない。
けどね。
「孤独だねえ」
「たまに、自分でもそう思う…」
久しぶりにランチを一緒にとることのできた紀子が、しみじみと言ってくれた。
はっきり言って要するに、秘書同士以外とは仕事の話をまったくできないに等しいのだ。
世間で、秘書という存在がお高くとまっているような印象を持たれているのは、そのせいなんじゃないかと思う。
紀子はそれを理解してくれていて、私の仕事については触れずにいてくれる。
けどそうすると、自然と話題はプライベートのほうに傾きがちになり、私は何度目かになる叱責を受けた。
「いいようにされてる」
「やっぱり、そう?」
祐也のことだ。
珍しく、少し間を置いただけで、先日またひょいと現れた。
そんな話をしたら、紀子がサンドイッチをかじりながら、ないない、と吐き捨てた。
「もう、終わりにしちゃいなよ」
「そうだよねえ」