副社長は溺愛御曹司
「和華は、いいのかしら」
「あいつは、興味ないわね」
「じゃあ、行かせてもらうわ。演目は何」
真夏の夜の夢だよーとチケットを振る久良子さんのもとに、暁さんが楚々とした仕草でやってくる。
背は私と同じくらいなのに、びっくりするくらい顔が小さくて、ほんと、お人形だ。
確か年齢は、和華さんと同じ、29歳。
「あら…また神崎様。私、以前、お能の鑑賞券をいただいたこともあるわ」
「ヤマトさんから?」
「ええ、つきあいがいいのね、彼」
そうか、副社長になる前は、ヤマトさんは執行役員兼事業部長だったから、暁さんの担当だったんだ。
「良家の出なんでしょうか、神崎様」
「きっとね」
「ヤマトさんも、お育ちよさそうだもんね」
あはは、と久良子さんが笑う。
ふうん。
ふうん。
えっ。
帰り道、震えた携帯を開いて、絶句した。
祐也からの着信だ。
また?
『今日、行っていい?』
「いいけど…」
会社出る時メールする、と言い残して、勝手に切られてしまった。
ずいぶん頻繁だな、最近。
女の子に、相手にされてないのかな。