副社長は溺愛御曹司

「和華は、いいのかしら」

「あいつは、興味ないわね」

「じゃあ、行かせてもらうわ。演目は何」



真夏の夜の夢だよーとチケットを振る久良子さんのもとに、暁さんが楚々とした仕草でやってくる。

背は私と同じくらいなのに、びっくりするくらい顔が小さくて、ほんと、お人形だ。

確か年齢は、和華さんと同じ、29歳。



「あら…また神崎様。私、以前、お能の鑑賞券をいただいたこともあるわ」

「ヤマトさんから?」

「ええ、つきあいがいいのね、彼」



そうか、副社長になる前は、ヤマトさんは執行役員兼事業部長だったから、暁さんの担当だったんだ。



「良家の出なんでしょうか、神崎様」

「きっとね」

「ヤマトさんも、お育ちよさそうだもんね」



あはは、と久良子さんが笑う。



ふうん。

ふうん。









えっ。

帰り道、震えた携帯を開いて、絶句した。

祐也からの着信だ。

また?



『今日、行っていい?』

「いいけど…」



会社出る時メールする、と言い残して、勝手に切られてしまった。

ずいぶん頻繁だな、最近。

女の子に、相手にされてないのかな。

< 39 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop