副社長は溺愛御曹司

「もう、そういうのは、嫌なんだって」

「気になる奴でも、いるの」

「いないけど、そんなの…」



肩を抱くように腕を回され、拒むべきなのか、このくらい許容すべきなのかわからないままじっとしていた。



「“ヤマトさん”?」



隣を見あげると、ちょっと皮肉に笑う、整った顔と目が合う。

少したれ気味の、まつ毛の長い甘い目が、昔から私は好きだった。

けど。



「冗談でも、そういうこと、言わないで」

「何かにつけて“ヤマトさんの都合を見ないと、わからない”だろ」



仕方ないでしょ、それが仕事なの。

安直な発想、やめてよ、小学生じゃないんだから。



「何本気で怒ってんの」



苛立ちを隠す余裕もなく自分のひざを見つめる私のこめかみに、わざと甘く、熱くキスをしてくる。

必死の思いでそれを振り払うと、ぱっとその腕から解放された。



「今日は、帰るわ」



うつむいていた私には、彼の顔は見えなかったけれど。

たぶん、そこそこプライドが傷ついて、でもそんなに気にしてもいなくて。

私の機嫌が直ったら、また出直せばいいや、的な。

どうせ、そんな感じなんじゃないだろうかと思えた。


上着と鞄をつかむと、祐也は特に足音を荒げるでもなく、じゃあな、といつもと何も変わらない雰囲気で部屋を出ていった。




< 41 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop