副社長は溺愛御曹司
「もう、そういうのは、嫌なんだって」
「気になる奴でも、いるの」
「いないけど、そんなの…」
肩を抱くように腕を回され、拒むべきなのか、このくらい許容すべきなのかわからないままじっとしていた。
「“ヤマトさん”?」
隣を見あげると、ちょっと皮肉に笑う、整った顔と目が合う。
少したれ気味の、まつ毛の長い甘い目が、昔から私は好きだった。
けど。
「冗談でも、そういうこと、言わないで」
「何かにつけて“ヤマトさんの都合を見ないと、わからない”だろ」
仕方ないでしょ、それが仕事なの。
安直な発想、やめてよ、小学生じゃないんだから。
「何本気で怒ってんの」
苛立ちを隠す余裕もなく自分のひざを見つめる私のこめかみに、わざと甘く、熱くキスをしてくる。
必死の思いでそれを振り払うと、ぱっとその腕から解放された。
「今日は、帰るわ」
うつむいていた私には、彼の顔は見えなかったけれど。
たぶん、そこそこプライドが傷ついて、でもそんなに気にしてもいなくて。
私の機嫌が直ったら、また出直せばいいや、的な。
どうせ、そんな感じなんじゃないだろうかと思えた。
上着と鞄をつかむと、祐也は特に足音を荒げるでもなく、じゃあな、といつもと何も変わらない雰囲気で部屋を出ていった。