副社長は溺愛御曹司
パーティの装いには、慎重になる。
同伴者として、そこそこ華やかさが必要な反面、あくまで秘書なので、控えめにしなければならない。
会社で着替えるのも手間なため、ジャケットをはおればそのまま仕事をしてもおかしくない、黒のシフォンドレスを選んだ。
昼から夕方の会だから、肩はボレロで隠すとして。
ストッキングだけ、直前に、ちょっと華のあるものにはき替えよう。
去年あたりから、友達の結婚ラッシュが始まったので、そこそこパーティアイテムも揃いつつあるのが幸いだった。
基本はヤマトさんの服装に合わせなければならず、そもそもその彼の服装を決める必要もあり、事前に打ち合わせをした。
「昨年行かれた久良子さんに伺ったところ、略礼服でよいとのことでした」
「略礼服…」
「ブラックスーツですね。お持ちのスリーピースと、ウイングカラーのシャツに、タイで十分です」
「タイって、昼ならストライプとかでも、いいんだっけ」
「大丈夫ですよ」
この会社は、取締役以上だけがスーツ着用のルールだ。
なのでヤマトさんも、副社長に就任する前は私服通勤だった。
つまり、人生において彼は、スーツ歴がまだ半年なのだ。
社外の人に会わない限りはノータイでもいいのに、毎朝きっちりネクタイを締めてくるのは。
いざ急に人に会うことになった時、素早く結べる自信がないからだと、以前言っていた。
「神谷は、ドレス?」
「はい」
可愛くしてきてね、と笑うヤマトさんに、他の3人の秘書を思い浮かべ。
こんなのがお供ですみません、という思いがした。