副社長は溺愛御曹司

うわっ、と思った。


出発前に自室で着替えたヤマトさんは。

何やら目を見張るくらい、かっこいい。



黒に近い、上品な光沢のあるダークスーツに、同素材のベスト。

ウィングカラーの白いシャツ、シルバーのアスコットタイ。

袖からのぞくダブルカフスが、また実にエレガントだ。


上背に加えて、スポーツマン体型で厚みもちゃんとあるため、服に着られている感じがまったくない。

ぴたりと身体に合った、フォーマルでほどよく華やかな装いが、最高にかっこよかった。



「素敵ですね」

「そお? ありがと」



上着のうしろ襟を整えながら、神谷も可愛い、と笑ってくれる。

こういうマナーのいいところが、お育ちがいいと言われてしまうゆえんだろう。


先にヤマトさんを車に乗せながら、私は再び申し訳なくなった。



「すみません、こんな、ちんちくりんがお供で…」

「確かに、ちっこめだよね」



いえ、私は160センチありますので、言いはしましたが、決して小さくありません。

あの秘書さんたちが、おかしいんです。


別に私、容姿にコンプレックスなんて全然ないし、そんなにまずくもないと思うけど。

それでもあの、モデルさんですかって人たちに囲まれていると、自信ってなんだっけと思うことがある。



この恰好で電車というのもあれなので、さすがに今日は社有車だ。

私の運転で、気楽にバンで行きましょうか、と申し出たら、なぜか、それはダメ、とヤマトさんに突っぱねられ。

けれどCEO夫妻と同乗は絶対に嫌だと思春期の少年のようなことを言うので、結局大きいほうの車を2台出すことになった。

< 45 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop