副社長は溺愛御曹司
うわっ、と思った。
出発前に自室で着替えたヤマトさんは。
何やら目を見張るくらい、かっこいい。
黒に近い、上品な光沢のあるダークスーツに、同素材のベスト。
ウィングカラーの白いシャツ、シルバーのアスコットタイ。
袖からのぞくダブルカフスが、また実にエレガントだ。
上背に加えて、スポーツマン体型で厚みもちゃんとあるため、服に着られている感じがまったくない。
ぴたりと身体に合った、フォーマルでほどよく華やかな装いが、最高にかっこよかった。
「素敵ですね」
「そお? ありがと」
上着のうしろ襟を整えながら、神谷も可愛い、と笑ってくれる。
こういうマナーのいいところが、お育ちがいいと言われてしまうゆえんだろう。
先にヤマトさんを車に乗せながら、私は再び申し訳なくなった。
「すみません、こんな、ちんちくりんがお供で…」
「確かに、ちっこめだよね」
いえ、私は160センチありますので、言いはしましたが、決して小さくありません。
あの秘書さんたちが、おかしいんです。
別に私、容姿にコンプレックスなんて全然ないし、そんなにまずくもないと思うけど。
それでもあの、モデルさんですかって人たちに囲まれていると、自信ってなんだっけと思うことがある。
この恰好で電車というのもあれなので、さすがに今日は社有車だ。
私の運転で、気楽にバンで行きましょうか、と申し出たら、なぜか、それはダメ、とヤマトさんに突っぱねられ。
けれどCEO夫妻と同乗は絶対に嫌だと思春期の少年のようなことを言うので、結局大きいほうの車を2台出すことになった。