副社長は溺愛御曹司

 * * *

すーず、とリズミカルに声をかけられた。

コンビニでヤマトさん用のおにぎりとサンドイッチを見つくろっていた私は、半端な時間ですいている店内を振り返った。

にこっと笑いかけてきた女の子は、ソフトウェア部の同期、三富紀子(みとみのりこ)だ。



「久しぶり!」

「時間、合わないもんねえ」



お弁当を選びながら、紀子が笑う。

デニムにロングカーディガンという、私とは違う、カジュアルな格好。

定時も決まったお昼休みもない、自由な勤務時間。


いいなあ、とつい思った。

実は私は、秘書になりたくてなったわけではないのだ。


学生時代、思いつきで取得した秘書技能検定2級という資格を、履歴書の穴埋めのつもりで書いたのが悪目立ちしたらしい。

ソフトウェア企画として採用されたはずの私は、配属発表の日、耳を疑った。



『人事総務部秘書課、神谷』



はい、なんて声は、とても出なかった。


秘書課?

人事総務部??

私、プランナーの試験を受けて採用されたはずなのに。

研修だって、プランナーの内容で受けたのに。

どうしてまた、秘書課?


どうしても何も、資格を持っていたからだ。

そのくらい、自分でもわかっていた。

< 5 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop