副社長は溺愛御曹司

「その頃だと、8歳、ですか?」

「まだ7歳かな、生まれる前だから。知ってる? 俺たち3人、全員誕生日が4月頭なんだよ。それぞれ、二日と離れてないんだ」

「珍しいですね、そこまでそろうの」

「だろ、もう、親に発情期があるんじゃないかって、兄貴たちと」



そこまで言って、女性に向かって話す話題じゃないと思い至ったらしく、ごめん、と目を泳がせる。

あの、私、子供じゃないので、そのくらいの話なら、ついていけますから。



「お互い、名前では苦労しますね」



かわいそうになって話題を少し前に戻すと、慣れた仕草でカトラリーを扱いながら、ヤマトさんが私を見て笑った。



「“すずこ”ちゃん?」



その声に、ドキッとする。

そう、何を隠そう、私の名前は。

「涼子」と書いて「すずこ」と読ませる、正しく読んでもらえない率、100%の名前なのだ。

けどそれが幸いして、かえって覚えやすいのか、誰もがすぐに、すず、と親しげに呼んでくれる。



「俺は、クラスにひとりくらいは、ヤマトでいいの? って訊いてくれる奴がいたから、まだマシかな」

「レベル、低いですね…」



名刺の英語表記も“Yamato”にしちゃダメかなあと言う彼を、ダメだと思います、とたしなめてふたりで笑った。



バースデイ仕様のデザートと花束を、ヤマトさんは用意してくれていた。

持ち帰りやすい、シンプルでコンパクトだけど、シックにラッピングされた花束は、すずらんだけを束ねたもので。

白とグリーンの涼やかな色あいに、涙が出るほど感激して。


私はもう、どうやってこの想いを伝えたらいいのか、わからなかった。




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