副社長は溺愛御曹司
「ここで大丈夫です」
「家まで、送るよ」
マンションの前は、道がごちゃごちゃしていたり一方通行だったりとややこしいので、駅前に車をつけてもらった。
ひとりで帰るという私を、こんな時くらい、と言って、乗ってきた車に、ヤマトさんが乗せてくれたのだ。
私の断りを無視して、ヤマトさんが、ここで待っててね、と運転手さんに言い残し、車を降りる。
暖かかった気候も、最近ようやく秋らしさを感じさせるようになって、夜はさすがにレースのボレロ1枚だと寒く感じた。
「ヤマトさんは、どうして副社長になろうと思われたんですか?」
ふと訊きたかったことを思い出して、尋ねてみる。
もう閉めきった商店街に、私たちの靴音と声だけが響いた。
ん? とあいづちを打ったあと、ヤマトさんは考えこむように沈黙してしまった。
「…自分の考えたとおりに、会社が動いたりするのって、怖くありませんか?」
「怖いよ」
今度は微笑んで、すんなり答えてくれる。
鞄を車に置いてきたヤマトさんは手ぶらで、両手をポケットに突っこんで歩いていたのだけど。
あ、と声をあげると、突然駆けだして、横道を入ったところで光を放っていた自販機の前に行き、煙草を1箱、買った。
あまりに唐突だったので、私は、ぽかんとそれを眺めていた。
こちらに戻ってきながら、セロファンをはがして頭の金色の紙を破ると、指の側面でケースのてっぺんを叩いて、一本とり出す。
慣れた仕草でそれをくわえると、こちらは持っていたらしいライターで、両手で煙草を覆うようにして火をつけた。
えっ、ヤマトさんて。
「…お煙草、吸われるんですか」
「知らなかった? うち男は全員、吸うよ」
「だって、会社では、まったく…」