副社長は溺愛御曹司
sched.06 違和
「ごめんね、あのあと問題なかった?」
「まったく。こちらこそ、失礼しました」
月曜日、久しぶりに会食に同行した帰り、金曜日のお礼を改めてしたら、まあ当然なんだけど、無邪気に蒸し返されてしまった。
日中の電車内で隣りに座るヤマトさんは、話題を変えようと渡した経済誌を受けとりつつも、読んでくれない。
「彼氏、待ってたんじゃない? 俺、悪いことしたかな」
「そういうのでは、ありませんから」
「じゃあ、どういうのなの」
「それは、訊かないでいただけると…」
のぞきこむようにして、半分不思議そうに、半分面白そうに訊いてくるのに、ああ…と穴に入りたい気分になる。
ヤマトさんに、こんなぐだぐだな状態を知られてしまうなんて。
祐也。
ぽかんと足をとめた私と、その視線の先の祐也を見て、ヤマトさんはすぐに何かを察知したらしく。
ややこしいことにならないよう気を使ってくれたんだろう、おやすみ、とだけ微笑んで、軽やかに駅のほうへ駆けていった。
前を開けた上着から、ベストを着た、すっと無駄のないウエストがのぞいて。
いかにも運動神経のよさそうなその背中を見ながら、来週もう一度、ちゃんとお礼を伝えなきゃ、と思った。
「悪い、邪魔して。知ってたら、あんなとこにいなかったのに」
「いいってば。なんの邪魔もしてないから」
祐也は祐也で間の悪さに申し訳ながり、しきりに謝ってくれた。
この人、勝手なくせに、こういう律儀なところがあるんだよなあ、とあきれる。
私はつい前回の別れも頭から吹っ飛び、彼を部屋にあげ、お茶を出した。