副社長は溺愛御曹司
思えば、あのタイミングで、会計も済ませてたんだなあ。



(どれだけスマートなの…)



全然そんなふうに見えないのに、彼が相当なエスコート慣れをしていたことに今さら気がついて。

お育ちがよくて、つきあいもいいんだっけね、となんだかいじけた気分になった。









「まあ、男と女は、いろいろあるよね」

「はあ」



ヤマトさんの口から出ると、こんなに違和感のある言葉もないだろう。

組んだ脚にほおづえをついて、うんうんとうなずく彼を、思わずじっと見てしまった。

ヤマトさんも、いろいろあるんですか?


駅に停車して、まばらに人が立つ車内に、杖をついた年配の女性が乗ってきた。

ほぼ同時に、ふたりで立ちあがる。

あいた席に女性が座るまで少しその場で見届けて、ヤマトさんは私をうながして電車を降りた。


ヤマトさん方式だ。


たとえば、私を押しとどめて自分が席を立ったとすると、私の前にヤマトさんは立つことになる。

そうすると、当然ボスを立たせた私は、気を使う。

お互いが逆でも、同じことだ。


なので、こういう時はふたりで立ってしまおう、とヤマトさんは考えたらしく。

ある時、席をゆずろうとした私に続いて立ちあがり、ぐいぐいとそのまま私を押して電車を降りた。


何も降りることはないんだけど、譲った相手と同じ車両にいるのが、どうにも落ち着かないらしいのだ。

その気持ちはすごくわかるので、最初びっくりはしたものの、そのやりかたに異論はなく、以来何度か、こうして途中下車している。



「俺の、ふたつ隣の席の人。姿勢がやたらよくて、声が一番大きかった」

「正解です」



次の電車を待つ合間に、交換した名刺を使って、今の会食の顔ぶれを復習する。

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