副社長は溺愛御曹司
そもそも今日、私が同行したのは、初めて会う相手が多いからだった。

そういう時は、のちのちのために同行する。

最近は、だいぶ人の覚えかたも飲みこんできたので、そういう場に私抜きで行くことも増えたんだけど。

今日は人数が多いので不安かと思い、事前に私が申し出ると、お願い、と素直に頼んできた。



「唯一の女性がいらっしゃいましたね。役職名と、お名前をどうぞ」

「常務取締役だろ。名前はね、えーとね…」



つっかえつっかえ、なんとかフルネームを言えたヤマトさんに拍手をした。



「よく覚えてらっしゃいますね」

「胸元、すごい開いてるなって見てたから」

「………」



もっと全体的な話を、したんだけど。

私の冷ややかな視線に気がついたらしく、ホームに立つヤマトさんが、電車まだかな、とあからさまにごまかした。





ヤマトさんとの、夢みたいな食事のあとに、祐也に抱かれるのは、なんだかためらわれて。

そもそも、もうこういうのはやめたいと、すでに言ったあとなわけで。

だから金曜日は、おとなしく何もしなかった祐也だけど、翌日は、しつこく誘いをかけてきて。


結局私は、根負けして、許してしまったのだった。



ふたりに“そんなんじゃない”って、それぞれ言って。

本当に、じゃあ、どんなのなんだ、と。

自分は、いったい何がしたいの、と。


憂鬱なため息をつきながら、お礼状を出すために主催者の名刺だけ別にしまい、ホームに入ってきた電車に乗る準備をした。




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