副社長は溺愛御曹司
「定足数」
「正解、じゃあ、当初予定されていた以外の議題を、なんと言う?」
「動議」
正解~、と久良子さんがほがらかに笑う。
その様子を見ていた暁さんが、ふふっと優雅に微笑んだ。
「すずちゃんは、今回が初めてなのよね、1級」
「はい、正直、受かるかどうか」
「受からなくたって別に損しないんだから、どんどん受ければいいんだよ」
和華さんがきっぱりと言う。
受験料は会社持ちだし、まあ、確かにそうなんだけど、なかなか出ないよね、ここまでの前向きな発想。
少しあいた時間を利用して、来月行われる秘書技能検定試験の例題を、みんなで解いているところだった。
私以外は全員、すでに1級を持っているんだけど、たまに受け直すことにしているらしい。
「慣れで仕事するのが一番怖いし、時流なんかも知ることができるしね」
「意外と、普段使わない技能なんかは、忘れているのよね」
「そんな暁に、出張先の対応に関する例題~」
はあ、とため息が出た。
のん気に見えて、なんてプロ意識の高い人たちだろう。
上期にとった準1級ですら、ひやひやしながら受けた私だけれど。
3人の勢いに押されるようにして、今回の受験を決心したのだった。
「すずちゃん、顔、暗いよ。接遇の基本は、笑顔よ」
「久良子さん、CEOってお煙草、吸われます?」
唐突な話題に驚く様子もなく、うん、と久良子さんはうなずいてみせた。
「後に仕事がないってわかってる時しか、吸わないけど」
やっぱり、知ってるんだ。
ボスのプロフィールや嗜好を知っておくことも、大事な務めなのに。
ヤマトさんの喫煙を今ごろ知った私は、ほんのちょっと、秘書としてショックを受けていなくもなかった。