副社長は溺愛御曹司


「定足数」

「正解、じゃあ、当初予定されていた以外の議題を、なんと言う?」

「動議」



正解~、と久良子さんがほがらかに笑う。

その様子を見ていた暁さんが、ふふっと優雅に微笑んだ。



「すずちゃんは、今回が初めてなのよね、1級」

「はい、正直、受かるかどうか」

「受からなくたって別に損しないんだから、どんどん受ければいいんだよ」



和華さんがきっぱりと言う。

受験料は会社持ちだし、まあ、確かにそうなんだけど、なかなか出ないよね、ここまでの前向きな発想。


少しあいた時間を利用して、来月行われる秘書技能検定試験の例題を、みんなで解いているところだった。

私以外は全員、すでに1級を持っているんだけど、たまに受け直すことにしているらしい。



「慣れで仕事するのが一番怖いし、時流なんかも知ることができるしね」

「意外と、普段使わない技能なんかは、忘れているのよね」

「そんな暁に、出張先の対応に関する例題~」



はあ、とため息が出た。

のん気に見えて、なんてプロ意識の高い人たちだろう。

上期にとった準1級ですら、ひやひやしながら受けた私だけれど。

3人の勢いに押されるようにして、今回の受験を決心したのだった。



「すずちゃん、顔、暗いよ。接遇の基本は、笑顔よ」

「久良子さん、CEOってお煙草、吸われます?」



唐突な話題に驚く様子もなく、うん、と久良子さんはうなずいてみせた。



「後に仕事がないってわかってる時しか、吸わないけど」



やっぱり、知ってるんだ。

ボスのプロフィールや嗜好を知っておくことも、大事な務めなのに。

ヤマトさんの喫煙を今ごろ知った私は、ほんのちょっと、秘書としてショックを受けていなくもなかった。


< 58 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop