副社長は溺愛御曹司
「お昼、召しあがってないんですか」
「うん、ちょっと」
「気分転換に、泳いでこられては?」
今はヤマトさんの昼休みなので、いつもなら食べに行くなり買いに出るなりしている時間のはずだった。
それが、部屋にこもってPCをいじっていたということは。
朝の一件が、心に残ってるんだろう。
あのあと杉さんがすぐに外出してしまったので、まだちゃんと話せていないはずだ。
思い立ったらすぐ、のヤマトさんは、午前中の間、フラストレーションのやり場に困っていたに違いない。
会社の最寄駅には、ヤマトさんが出社前や帰りがけに使うスポーツジムが隣接している。
「でも、午後すぐ、アポがあるだろ」
「事業部長との打ち合わせですから、ずらせると思います。残りのお昼休みも合わせて、1.5時間ほどあきをつくりますから、どうぞ」
ほんと、とヤマトさんが目を見開いた。
「耐水の絆創膏を貼っておきますが、あまり無茶なさらないでくださいね」
「気をつける、ありがとう」
戻ったらすぐ貼りかえるので、必ず声をかけてくださいね、と念を押すと、嬉しそうにうなずいた。
救急箱を片づける私に、なあ、とヤマトさんが声をかける。
「はい」
「まだ、開発に行きたい?」
思わず手をとめて、向かいに座る、その顔を見あげた。
ヤマトさんにも他の秘書にも、一度もその話はしたことがなかったはずだ。
「どうして…」
「先月、考課の件で人事部長と話した時、聞いたんだ」