副社長は溺愛御曹司
「考課、ですか」
私はあくまで人事部の社員であり、ヤマトさんの部下ではないので、人事考課には、彼は関係ないはずだ。
不思議に思ったのが伝わったらしく、ヤマトさんが微笑んだ。
「俺が査定するわけじゃないけど、仕事ぶりとかは共有するんだよ。すごくよくやってくれてるって、伝えてある」
そりゃそうか、と納得した、
私の日常の働きを一番よく知っているのは、ヤマトさんだもんね。
「志望動機が、そもそもソフトだったんだってね。ごめんね、俺、全然知らなくて」
「いえ、今の仕事も、すごくやりがいがあって、楽しませていただいています」
「なんで前期末、異動希望を出さなかったの?」
救急箱をひざに抱えたまま、私は黙った。
それは。
もう、何度出しても意味がないのなら、上長にも迷惑をかけるだけだし、やめようかと思って。
なんだか、今のポジションも面白いから、いずれ自然と異動の話が出るまで、待ってみようかと思って。
「あきらめちゃった?」
つまりは、そういうことになるんだろう。
けど、どう答えてもヤマトさんに申し訳ない気がして、何も言えなかった。
「俺が、行かせてあげる」
顔を上げると、優しい微笑みと目が合った。
「神谷には、感謝してるから。望んだところで働いてほしいよ。こう見えても俺、それができるくらいの力、あるから」
「ヤマトさん…」
「今から人事と相談して後任の求人を出すから、少し時間はかかるかもしれないけど」