副社長は溺愛御曹司
「遅れてごめんね! お誕生日おめでと~」
マスター明けで、3週間近い休みをとっていた紀子が、出社早々ランチに誘い出してくれた。
プレゼント、と言って渡してくれたのは、私が今まで使っていたのを壊してしまった、メイクポーチだ。
「ありがとう! もう、ファスナー閉まらないのを無理やり使ってた」
「どんだけ物持ちいいのよ。あとこれ、おみやげ」
はい、と渡されたのは、お守りだった。
ずいぶん古風なおみやげだなあと思ったけれど、縁結び、とあるのを見てピンときた。
そうか、紀子の実家は、島根だ。
「出雲は今、神在月だからねー。ご利益あるよ。すずが、さっさと新しい男と結ばれますように」
手を合わせてから、紀子が天丼にお箸をつける。
ははは、と乾いた笑いが出たのを、彼女は見逃してくれなかった。
「あの勝手なのと、どうなったの」
「うーん…いや。うーん…」
決別宣言をしたはいいけれど、結局ぐだぐだともとの状態におさまりつつあることを報告すると。
紀子が、背中まである茶色い髪をかきあげて、ため息をついた。
「すずが、そこまでダメ女だとは、思わなかった」
「ダメ女…」
「そんなの許して、どうするのよ。永遠に続けて、いつか向こうが結婚でもする時に捨てられる気?」
確かに、そんな形でもない限り終われない気がする…。
でも私、一度は、頑張ったんだよ。
ちゃんと言ったんだけどね。
「一度でダメなら、二度三度と言ってやらなきゃ。言うたびもとに戻ってたら、いつまでたっても進まないよ」
「そうだよねえ」
でも結局、私は祐也のことが嫌いになれないのだ。
それがたぶん、一番の問題なんだろう。