副社長は溺愛御曹司

「あとで連絡するよ。今度、お昼も行こうね」



床下配線のためパネルカーペット敷きになっている廊下をフロアへと戻る紀子は、すっかり開発者という感じで。

社内にほんのわずかしかいない、スーツやジャケットというスタイルに属す私は、なんだか居場所のない思いがした。


 * * *


夕方、明日のスケジュールを確認し、週末の移動の新幹線のチケットを帰りがけに取りにいこうと考えていると、ゴンゴン、と横のガラスがまた鳴った。

見れば、帰社したところらしいヤマトさんが、私の渡した会食相手の資料を掲げて、おかしそうにこちらに笑いかけている。

歩きながらガラスを叩いたらしい彼は、そのまま廊下を通りすぎ、役員室に入っていった。

メモしておいた相手の特徴が、ぴったりすぎてお腹を抱えた、というメッセージだろう。

子供みたいなその行動に、つい笑った。


ヤマトさんは、私が机を拭くと、そんなの清掃業者さんに任せればいいよと言う。

常備してあるスーツを定期的にクリーニングに出すと、そんなの自分でやるよと言う。

花を飾れば、誰が見るのと言い、おやつを持っていけば、食べていいよと言う。


あのね、ヤマトさん。

私、何もサービスでこういうことをしてるんじゃないんです。


身の回りのすべてを請け負って、あなたが仕事のことだけ考えていられるようにする。

それが、私たち秘書の、仕事なんですよ。


わからずや!



< 7 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop