副社長は溺愛御曹司
sched.08 リミット
「ヤマト、います?」
そう秘書室に入ってきたのは、珍しい、ヤマトさんの弟さん、和之さんだ。
他のふたりと同じですらりと背が高く、でもヤマトさんや延大さんに比べると、だいぶ細くて華奢だ。
さらっと明るめな髪がまだ学生っぽくて、どこか少年みたいな雰囲気を残している。
「今、外出されてるんです。何か承りましょうか」
「じゃあ、これ、お願いします」
和之さんは、持っていたフロッピーディスクのようなものと、ひとつの機材を私のデスクに置いた。
よく見ると、フロッピーじゃない、MOだ、これ。
じゃあこっちは、外づけのMOドライブか。
「兄貴に頼まれたものだから、見せればわかると思います」
「はい、かしこまりました」
ばらばらにならないよう、両方を封筒に入れて、和之さんの名前と日付と今の時刻を書きいれた。
立ち去ろうとした和之さんが、ふと振り返って、私に笑いかける。
「ちょっと前なら、そういうの、平気で開発フロアまで探しに来てたのに」
ようやく、副社長の自覚が出てきたみたいですね、と揶揄するように軽く眉を上げた。
8つも下の弟さんにこんな言われかたするなんて、ヤマトさん、大丈夫なのかしら。
「神谷さんのおかげかなあ」
にこ、と微笑んで、ガラスの向こうに音もなく消える。
私は封筒を手にしたまま、その背中を見送った。
そう言っていただけるのは、嬉しいけど。
でも、そんなこと、ないです。
きっと誰が秘書だったとしても、ヤマトさんは自分で、あるべき姿にたどりついたはず。
きっと。