副社長は溺愛御曹司


「さっきから、何書いてるの」



新幹線の中、経済誌を読んでいたヤマトさんが不思議そうに訊いてきた。

本来、こういう出張の場合、ボスをくつろがせるために、秘書は別の列に座るものなんだけど。

初めての出張でそれをしたら、なんでせっかく一緒に行くのに別々に座るの? と言われてしまい、以来、隣に座ることにしている。

ちなみにCEOや社長たちはあえて全員違う車両、彼らは当然、秘書とボスも別の列だ。



「クリスマスカードです。関係各社の秘書さんや、おつきあいのある方たちに」

「毎年、やってるの、それ?」

「はい、私だけでなく、久良子さんたちも」



こういうのって、案外重要だ。

特に、しょっちゅうやりとりが発生するわけでもない相手の場合、こういう時節の挨拶があるかないかで関係がぐっと変わる。

それに、こうしてひとりひとり、連絡先を手で書いてご挨拶するのは、楽しい。



「女の子って感じだね」

「大事な仕事なんですよ」



バカにされたわけではないことを承知の上で、心外な、という顔をしてみせると、ヤマトさんが笑った。



「そういうのに、助けられてるんだろうね、俺たちは」



窓枠にひじをついて、健康そのものという顔で笑うヤマトさんは、もう、私にはなんだかまぶしくて。

もうすぐ手の届かない人になるんだなあ、と実感した。





「堤副社長、さきほど初めてお会いしました。業界紙などでは拝見してましたけど、素敵な方ですねえ」

「恐れいります」



CEOたちが打ち合わせに入ると、私たちは少しの自由時間となった。

関係部署を回って、要所のアシスタントさんなど、やりとりのある方たちに挨拶をする。

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