副社長は溺愛御曹司
技術なんて、そんなにぽろっと明らかにしていいものなのかと不思議に思っていたんだけれど。
「本当に機密の部分は出さないし、出したところで、誰もが簡単に真似できるわけじゃないからね」
来る途中ヤマトさんに訊いたら、そう返ってきた。
そんなもんなのか。
技術は技術者が持っている、という彼の言葉は、本当にそのままの意味だったんだ。
生き馬の目を抜くようなこの業界で、この会合の顔ぶれも毎年少しずつ必ず変わる。
吸収合併があったり、撤退があったり、倒産や新規参入があったりと、せわしないからだ。
けど結局は、テクノロジーを愛する人たちの集まりなのかもしれない。
みんなで頭脳と情報を持ち寄って、業界をよくしていきましょうって、そういう無邪気なラジカルさのある世界なのかも。
なんとなく、ヤマトさんぽいな、と思った。
会合自体は、私たち秘書も別室のモニターで見ながら、記録をとる。
正式な記録は幹事の企業がつけるので、私たちはメモ程度だけれど、これがなかなかくたびれる。
二日目の夜、閉会式も兼ねたパーティ形式の夕食をCEOたちがとる間、私たち秘書は先にホテルへ戻った。
明日はチェックアウトなので、荷物を整理しながら、そろそろお開きになっている頃だと思っていると、携帯が震えた。
見れば、ヤマトさんだ。
「はい、神谷です」
『あれっ?』
つながるなり、素っ頓狂な声が聞こえてきた。
『ごめん、間違えた』
少し慌てている様子に、いえ、と笑ってから、はっと気がついた。
もしかして、“神崎様”にかけようとしたんじゃないだろうか。
読みも近いし、最初の一文字も同じだ。
何やってんのよ、とあきれが襲う。
ていうか、出張先からかけるって、どれだけさみしがり屋さんなのよ。
確証もないのにそんなことを思っていると、ちょうどいいや、とヤマトさんが言った。
『今どこ、ホテル?』
「はい」
『ちょっと、出てこられない?』
は? とこちらも素っ頓狂な声を出しつつ、何か忘れ物とか、会合の記録を見せてほしいとか、そんなことかなと考えていると。
『飲もうよ』
ほがらかな声が、そう誘ってきた。
「本当に機密の部分は出さないし、出したところで、誰もが簡単に真似できるわけじゃないからね」
来る途中ヤマトさんに訊いたら、そう返ってきた。
そんなもんなのか。
技術は技術者が持っている、という彼の言葉は、本当にそのままの意味だったんだ。
生き馬の目を抜くようなこの業界で、この会合の顔ぶれも毎年少しずつ必ず変わる。
吸収合併があったり、撤退があったり、倒産や新規参入があったりと、せわしないからだ。
けど結局は、テクノロジーを愛する人たちの集まりなのかもしれない。
みんなで頭脳と情報を持ち寄って、業界をよくしていきましょうって、そういう無邪気なラジカルさのある世界なのかも。
なんとなく、ヤマトさんぽいな、と思った。
会合自体は、私たち秘書も別室のモニターで見ながら、記録をとる。
正式な記録は幹事の企業がつけるので、私たちはメモ程度だけれど、これがなかなかくたびれる。
二日目の夜、閉会式も兼ねたパーティ形式の夕食をCEOたちがとる間、私たち秘書は先にホテルへ戻った。
明日はチェックアウトなので、荷物を整理しながら、そろそろお開きになっている頃だと思っていると、携帯が震えた。
見れば、ヤマトさんだ。
「はい、神谷です」
『あれっ?』
つながるなり、素っ頓狂な声が聞こえてきた。
『ごめん、間違えた』
少し慌てている様子に、いえ、と笑ってから、はっと気がついた。
もしかして、“神崎様”にかけようとしたんじゃないだろうか。
読みも近いし、最初の一文字も同じだ。
何やってんのよ、とあきれが襲う。
ていうか、出張先からかけるって、どれだけさみしがり屋さんなのよ。
確証もないのにそんなことを思っていると、ちょうどいいや、とヤマトさんが言った。
『今どこ、ホテル?』
「はい」
『ちょっと、出てこられない?』
は? とこちらも素っ頓狂な声を出しつつ、何か忘れ物とか、会合の記録を見せてほしいとか、そんなことかなと考えていると。
『飲もうよ』
ほがらかな声が、そう誘ってきた。