副社長は溺愛御曹司
sched.09 想い
「この間と、ずいぶん違いますね…」
「俺、こういうのも好きだよ」
すでに22時を回ろうとしている頃、ヤマトさんがつれてきてくれたのは、一見、いわゆる赤提灯系のお店だった。
狭い店内は、焼き鳥と煙草の煙で白く濁り、会社帰りとおぼしきワイシャツ姿の男性たちで埋めつくされている。
けれど丸太をまっぷたつにしたようなテーブルは、なぜか妙におしゃれで、そういえば雑然とした店内も、あくまで清潔だ。
どうやら、猥雑で敷居の低いお店を装った、知る人ぞ知る飲み屋らしい。
「面白いお店ですね」
だろ、とメニューを眺めながら煙草をくわえたヤマトさんが言う。
夕食会で、あまり食べられなかったという彼は、みんなと別れて何かお腹に入れようと、ホテルの周りをぶらついていたらしい。
いいお店を見つけたところで、たまたま私に間違って電話をして、ついでに呼び出すことを思いついたらしかった。
「あの会合って、会社によっては、社内トップの技術屋をよこしてたりするだろ。話しこんでたら、食べそびれちゃった」
「ヤマトさんも、元、トップの技術屋さんですもんね」
「今でも、そうだと思ってるよ」
はやばやとビールに見切りをつけて、焼酎をロックで飲んでいるヤマトさんが、自負を隠そうともせずに、にやりと私を見る。
店の一番奥のテーブルで向かい合っている私たちは、数少ない女性連れだ。
ヤマトさんも、仕事帰りのサラリーマンというには、ちょっと小ぎれいすぎるし、いったいどんなふたり組に見えているんだろう。
「でも、親父にはかなわないかな」
「そうなんですか」
そうなんですよ、とヤマトさんが悲しげにため息をつきながら、枝豆を口に運んだ。
「プログラミングも、日々進歩してるからさ、ちょっと現場を離れると、すぐ置いてかれるんだけど」