副社長は溺愛御曹司
今日の発言、聞いてたらさ、とふてくされたように眉をしかめる。



「親父の奴、全然現役なの。どれだけ勉強熱心なんだよって、ちょっとへこんだ…」



へこんじゃったんだ。

メニューを受けとりながら、声を上げて笑うと、じろりとにらまれた。



「何、お飲みになります?」

「これ、おいしいから、ボトル頼もうかな。神谷は?」

「私は、うーん、サワーあたりで」



一応、ヤマトさんといる以上は、まだ勤務中の気がして、あまり強いお酒は控えようとすると。

えーっ、とヤマトさんが不満そうな声を上げて、短くなった煙草を消した。



「明日は帰るだけだろ。ちょっと、つきあえよ。強いんだからさ」

「ヤマトさんに比べたら、それほどでも…」



誕生日の時にも思ったけれど、ヤマトさんは異常にお酒が強い。

ワインを水のようにさらさらと飲み干し、顔色ひとつ変えない。

私も別に弱くはないけれど、さすがに、あそこまでじゃない。


けど仕方ない、ご所望なら、つきあおう。

久良子さんたちと夕食をすませていた私は、グラスふたつと焼酎のボトルを頼み、ヤマトさん用の食べ物を追加した。





「あの、前にもお訊きしたんですが」

「うん?」



私とヤマトさんが、一緒に食事をとる機会というのは、まずない。

彼が執務室を空けている間こそ、私が秘書室にいないと、彼宛ての連絡に対応ができないからである。

これもいい機会と思って、訊きそびれたことを持ち出してみた。



「どうして副社長になろうと思われたんですか?」



ほっけと肉じゃがと筑前煮、という完全に夕ご飯の様相を呈している食卓にお箸をつけていたヤマトさんが、ぱっと私を見た。



「話さなかったっけ」

「いえ」


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