副社長は溺愛御曹司
「な、恥ずかしいだろ」
「いいえ、素敵です」
再び目線を落としてしまったヤマトさんのグラスに、氷を落として焼酎を注いだ。
目が合うと、照れくさそうに笑う。
私は。
この人の秘書でいられて、本当によかったと思った。
「うまかったー」
気をとり直した後は、高校生のような食欲を見せて、次々とお皿を空にしていったヤマトさんが、満足げに夜空を見あげた。
お店からホテルは、歩いてすぐだ。
服が完全に煙の臭いに染まってしまい、替えのジャケットを持ってきて正解だったと自分を褒めた。
「ワイシャツとスーツ、今夜中にホテルにお出しくださいね。明日朝、私が受けとっておきますから」
「ありがと」
俺がやるよ、って言わなくなったなあ、としみじみ噛みしめる。
もうとっくに日付が変わっているせいで、誰もいないのをいいことに、煙草を吸いながらぷらぷら歩いているヤマトさんが。
あのね、とふいに言った。
「はい」
「次の人、決まったんだ」
あたりが、急に静まり返った気がした。
少し先を歩いていたヤマトさんが振り返ったせいで、私は自分の足がとまっていたことに気がついた。
不思議そうに見る彼に、慌ててついていく。
「週明けから、来てくれることになってるから。引き継ぎ、2週間あればいいかな?」
「…はい」
「なら年内には、異動できるね。木戸さんにも、そう伝えとくよ」