副社長は溺愛御曹司
にこっと笑う彼を見て。

限りなく、脱力する。



ヤマトさん。

嬉しいんですけど。


それは、たぶん、違います…。



まさかと思うけど、伝わらなかったの?

それとも、そうやって、ボスと秘書の親愛の情ってことに、してくれる気?



「そうですか…」

「そうですかって、何」



なかば疲れたような気分で答えると、ヤマトさんがおかしそうに吹き出した。

なんだか、ずいぶん近くにいるな、と思った時には、耳元に手が伸びてきて。


気がついたら、キスをされていた。





――え。





一度、軽く重なった後、少し離れて。

確かめるように、目をのぞきこまれる。


その顔は、少しいたずらっぽく笑んで、妙に楽しそうでもあり。

私は何がなんだか、さっぱりだったから、顔にもそれが出ていたと思う。


身を引こうとしたら、あっさり壁にぶつかって。

そこに私を押しつけるように、再びヤマトさんが唇を重ねてきた。

今度はたっぷりと、角度を変えて何度も、甘く、ゆっくり口づけられる。

コーヒーと、煙草の香り。

あれだけ飲んだお酒の匂いが、ほとんどしないということは、相当強いんだと、改めて思った。


それにしても、どういうことなんだろう。


いつの間にか鞄を床に置いたらしい、ヤマトさんの両手が、私の髪に差しこまれる。

その感覚に身体が震え、今さら、心臓が痛いくらい鳴りはじめた。

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