副社長は溺愛御曹司
私は、祐也しか知らないから。


キスが、人によってこんなに違うものなんだって、初めて味わった。

感触も、味も匂いもテンポも、全部違う。

しかもこれ、ヤマトさんなんだ。


そう思うと、身体が熱くなった。


ヤマトさんが、許可を求めるように、私の唇を軽く噛んで、遊ぶように舌先で触れる。

前を開けたスーツの中に腕を入れて、締まった身体に抱きつくと、それを承認のしるしと受けとったのか、キスが深くなった。


髪をかきまわしていた手が、背中に降りて、私を抱きしめる。

便乗しつつも、私は、いまだにわけがわからなくて。

ひょっとして、お別れの記念かなと、想像した。



なぶるように絡むかと思えば、戯れるように弾む、ヤマトさんのキスは。

あまりの甘さに、酔いそうになる。



ベッド行こ、とささやかれた時には、記念でそこまでするの、と思わなくもなかったけれど。

けど、こんな機会、なかなかないし。

ヤマトさんに抱いてもらえるなんて、これが最後だろうし、と思って。


これが、ダメ女と言われるゆえんかなあと考えつつも、正直にうなずくと、ヤマトさんが嬉しそうに笑った。





何もかも、祐也と違う。

筋肉に覆われた背中も、私に触れる手も、唇も。


私は緊張で、頭が真っ白になることも覚悟していたのだけれど。

始まってみれば、意外と冷静に、このチャンスを楽しむつもりになっていた。


とはいえ、ひとりの相手に慣れすぎた私は、戸惑うことばかりで。

ヤマトさんは、そんな私を、どこまでも優しく抱くかと思いきや、ちっともそんなことはなく。

彼の性格そのままに、無邪気に楽しげに、わりと好き勝手に私を扱った。

ように思う。



頭がなかなか追いつかない私も、やっぱり身体は正直で。

喜んで、そんな彼を受け入れた。


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