副社長は溺愛御曹司
ビジネスホテルとしては上級だけど、それでも壁の厚さなんて、たかが知れている。

必死に声を噛み殺す私を、憎らしくも満足げなヤマトさんが笑う。

ちょっとは協力してよ、という思いで見あげると、仕方ないなあという顔で、唇をふさいでくれた。



ああ、こんなことなら。

やっぱりあんなに、飲むんじゃなかった。

どこかふわふわと、お酒が響いていて。


この快感を、後で、覚えていなかったりしたら。

そんなの、もったいなさすぎる。










「神谷は、あれだね」

「はい?」



想像以上に、綺麗な筋肉のついている腕で、私をあやすように抱きながら。

ヤマトさんが、髪にキスを落として、感心するような調子で言った。



「意外と、しっかり、女だね」



思わず笑った。

私も、同じ感想を抱いたからだ。


汗の浮いた背中を抱きながら、ヤマトさんて、男の人だったんだなあと考えていた。

自分で好きだと言ったくせに。



「眠い?」

「はい…」



無事終わった、というのも変な表現だけど、まさにそんな状態の私は、安堵からか、急激な眠気に襲われていた。

寝ていいよ、というように、私を胸に抱き寄せて、ぽんぽんと頭を叩いてくれる。

その厚みのある身体は、包みこまれるような安心感があって、ますます眠気を誘われた。


ねえヤマトさん、彼女はどうしたんですか?

意外とこういうとこ、適当な人なのかな。


神崎志穂様、かどうか、知らないけど。

ごめんなさい、私も、どうしてもどうしても彼が好きで、一度だけ、してみたかったの。

もうこれきりだから、どうか許して。


どうか。




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