副社長は溺愛御曹司
ふと目が覚めた時には、私を腕に抱いたまま、ヤマトさんもぐっすり寝ていた。
ベッドサイドの時計を見ると、ほとんど時間がたっていない。
いけない、早くクリーニングに出さないと、朝までに間に合わないかもしれない。
少し迷って、これも記念だと、無防備な寝顔にキスをさせてもらってから、そっとベッドを抜け出した。
服を身に着けて、ヤマトさんが脱ぎ散らかしたワイシャツとスーツを拾い、ベルトを抜いてポケットの中身をあらためる。
ふと心配になって、サイドテーブルのアラームを確認すると、やっぱり設定されていなかった。
念のため、明日起きるべき時刻に設定して、スラックスのポケットに入っていた携帯も、手の届くところに置く。
音を立てないように部屋を後にして、1階のフロントへ降りた。
エレベーターの中の鏡で、ちょっと身だしなみを整える。
うん、特に問題ない。
毎年ここに宿泊するおかげか、超特急で、チェックアウトまでに済ませてくれるとフロントが請けあってくれた。
自分の部屋に戻って、部屋着に着替えて、ベッドにどさりと寝転がる。
特に思い出そうとしなくても、頭の中は、さっきまでのヤマトさんでいっぱいだった。
ありがと、ヤマトさん。
これでしばらく、さみしくないかも。
明日から、何事もなかったように、というのはさすがに難しいかもしれないけど。
これまでどおりの、秘書としてふるまうから、安心してくださいね。
あと少しの間だから、安心してくださいね。
新幹線の席を移した私を、ヤマトさんが怪訝そうに見た。
だって、ゆうべの今朝で、ヤマトさんが隣にいたら、さすがに私、意識しちゃうもの。
そのくらい、勘弁してください。
戻るとすぐ、室内に私の異動が告知され。
私は引き継ぎのために、デスクを空けたり席を用意したりと、それなりに忙しい数日を送った。
事務的な連絡以外で、ヤマトさんと話すことは、ほとんどなくて済んだ。