副社長は溺愛御曹司
sched.10 残滓
濱中芳実(はまなかよしみ)さんという、その秘書さんは。
私よりひとつ上の、大きな目が印象的な、可愛らしい顔立ちの女性で。
背も私と同じくらい。
すぐに打ちとけた。
「音楽関係の事務所で、会長秘書をしてました」
「すごい、華やかそうですね」
私のデスクに椅子をふたつ置いて、ほとんどの業務をふたりでこなす。
その体制で、もう一週間がたち、さすが経験者である濱中さんの仕事ぶりは、まったく問題ないので。
最後の週である今日からは、基本的に濱中さんメインで動き、私はサポート、という形にしていた。
久良子さんたちは、私の異動の話に目を丸くしたものの、もともとの志望と聞いて、納得したらしく。
心から、ということがわかる様子で、応援してくれた。
「でも、ちょっと惜しいね」
「未経験でここまでできる人、なかなかいないものね」
「すずちゃんなら、開発でも活躍するよ」
口々にそう言ってくれ、最後に、けど、と口をそろえた。
「ヤマトさんが、さみしがるね」
検定の筆記試験には、合格していた。
3人の出張中に、合格発表がWEB上で開示され、暁さんが全員分チェックしてくれたのだ。
週末には面接試験がある。
これも記念と、きちんと受けることにした。
ヤマトさんは。
日に日に無口になっていく。