副社長は溺愛御曹司
「珍しいな、すずが泣くなんて」
泣きそうで泣かないキャラなのにな。
そう言われて、気恥ずかしくなり、もらったナプキンで涙を拭く。
わあ、ほんとに泣いてる。
「番号変えるような時は、連絡するからさ。ヤマトさんとうまくいかなかったら、一報入れて」
伝票をとると、じゃあな、とだけ言って、店を出ていった。
私は勝手なことに、ほっとしたような、たまらなくさみしいような気持ちで、さらに泣いて。
ナプキンじゃ足りなくなったので、ハンカチを目にあてていたら、横のガラスがコンコンと叩かれた。
祐也が、笑いながら手を振って、交差点を渡っていく。
私も、笑って見送れたら、よかったのに。
涙は、とまる気配を見せない。
初めての、完全な別れに。
始まりよりもエネルギーがいるなあ、と息をついた。
「濱中さん、これ、よろしく」
「かしこまりました」
秘書室に入ってきたヤマトさんが、査閲済みの文書をデスクに置いた。
私のことは、見ない。
別にもう、完全なサポート役だから、いいんだけど。
でも、いったいどうしてこんなに、私を疎むんだろう。
何がそんなに、気に入らないんだろう。
そのまま、さっさと出ていこうとしたヤマトさんを、暁さんが呼びとめる。
「PCの調子が悪くて。急に、電源が落ちてしまうんです」
「ほんと、ちょっと見せて」
ヤマトさんは、少し首をかしげると、私の横を抜けて、後列の暁さんの席へ向かった。