副社長は溺愛御曹司
「これ、この間入れ替えたやつだよね。ブルースクリーンは出る?」
「いいえ、電源だけです。入らない時もあったりして」
この会社では、開発のPCはすべてデスクトップだけれど、管理部門はノートだ。
デスクトップのほうは、契約しているメーカーからまとめて買うけれど、ノートは購買部が、試し感覚であれこれ買ったりする。
ヤマトさんが、ノートを傾けて型番を確認すると、あーと残念そうな声を上げた。
「このラインの初期ロットは、ダメなんだよねー。たぶん、メモリの初期不良だよ」
「メーカー修理ですか」
「そうだとすればね。俺のほうで、メモリチェックしとくよ。もう1台あるよね?」
「ええ、外出用のが」
「じゃあこっち、預かるね」
申し訳ございません、と言う暁さんに笑い返すと、ヤマトさんはアダプタと本体を持って、私には一瞥もくれずに、出ていった。
無視する、とまではいかないので、濱中さんも妙には感じていないみたいだけど。
明らかに、彼は私を敬遠している。
後悔しているんだろうか。
でも、だからって、こんな最後の数日にまで、あんな態度とらなくたっていいのに。
私は、悲しさ半分と、純粋に何がそんなに不愉快なのかわからないのが半分とで、すっかり困っていた。
いくら悔やんでいるとしたって、もうしちゃったものは、仕方ないじゃないか。
らしくないよ、ヤマトさん。
「ヤマトさんと、何かあったの?」
やはり、久良子さんたちの目はごまかせなかった。
濱中さんと暁さんに留守をお願いして、和華さんと3人で昼食をとりに出てきたところだ。
「そう見えますか」
「すずちゃんも、ちょっとよそよそしいけど、基本はヤマトさんが一方的にへそ曲げてる感じだよね」
「うん。どちたの、ヤマトくん、って訊いてあげたくなる」