Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
白地にピンクのバラがゴテゴテとプリントされたそれは、先週末、しぶる母から泣き落としでせしめたお金で買ったものだ。
母方の祖母が去年縫って送ってくれた手作りの浴衣があるのだが、着たくなかった。
柄がパンダなのだ。
72歳のおばあちゃんは、奈緒子がいつまでもそういうのが好きだと思っている。
「あれがまだ着れるんだからいいじゃない。
せっかくお祖母ちゃんが縫ってくれたのに。もったいない」
最初、母は眉間に皺を寄せてそう言い、奈緒子を突き放した。
お祖母ちゃんには悪いってそんなことは分かっている。
でも、パンダの浴衣など着て行ったら、絶対歌織に馬鹿にされるに決まってる。
「あんな幼稚園みたいなやつ、着たくない。皆、浴衣着るのに、奈緒子だけ普通の洋服なんて嫌!」
涙ぐみながら、叫んだ。
すると居間で新聞を読んでいた父が一言ボソリと、
「買ってやれ。奈緒子も年頃だから、自分の趣味があるんだよ」と母に言ってくれた。
父の鶴の一声で母は仕方なく、財布の紐を緩めることになった。