Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
「それにしても、あいつ、前歯の差し歯、間に合ってよかったよね。
前歯ないんじゃ、結婚式の写真が間抜けだもんなあ」
ニヤニヤしながら、尚哉は、枝豆に手を伸ばす。
(うっ…『アレ』を言い出す前触れだ…)
奈緒子は身構えた。
「それにしても奈緒子の蹴りとパンチはすげえなあ。
さすがに元ヤンだと思った。
しかも浴衣なのに、全然気にしねえし。浴衣の裾が全開で、変なもの丸見えだし。
こっちが『うわあっ』ってなったよ」
(やっぱりだ…尚哉の好きな
過去を持ち出す羞恥プレイ…)
「ちょっとお…やめてよ…」
奈緒子は赤くなる。
尚哉は、箸でチヂミを切り分けながら嬉しげにククッ…と笑う。
2人きりになると、尚哉は時々これをやった。
(しかも、浴衣の裾から変なものって〜…男だったら、『ラッキー♪』と思うのでないか?私のパンツは目の毒なわけ?)
上目遣いに尚哉を軽く睨んだ。
そんな視線を完全に知らんぷりして、尚哉は「今日は本当、あっちいよなあ」と言ってネクタイを緩め、一気に半分ほどを飲み干した。
ジョッキを握る彼の手は、男の癖にしなやかで長い。
綺麗に爪が切り揃えてある。
デスクワークの手だ。
よく、手が綺麗だって女の子に言われるんだ、と彼自身が言っていた。