Breathless Kiss〜ブレスレス・キス

「あ!ついでに一緒に
赤ワインをオーダーしよ!」


尚哉の手から、
タブレットをひったくる。


「奈緒子ぉ。大丈夫かよ〜?
ちゃんぽんすんなって。
お前、担いで帰るの嫌だぜ?」


尚哉は眉を顰め、露骨に嫌な顔をした。

口元は、ちょっと笑いを含んでいるけれど。


社員旅行で泥酔して、齋藤に空き部屋に連れ込まれたのも、ちゃんぽん飲みが原因だったのに、2週間経った今、喉元過ぎた熱さはもう忘れていた。


「大丈夫。大丈夫。ビールより赤ワインの方がアボカドに合うし」


奈緒子は上機嫌で手のひらをひらひらさせる。


誰よりも尚哉と飲むのが、1番楽しい、と思う。

リラックス出来るし、会社の人間の噂ばなしも共通の話題として出来る。


奈緒子の話を尚哉は、いつも興味深げに聴いてくれる。


最近、観ているドラマに出ている話題の女優が信じられないほど演技が下手だ、とか。

週イチで通っているヨガの夜7時からのクラスに場違いなおばさんグループ4人が紛れ込んできて、先生の手を煩わせている、とか。


ーーへえ。それでどうしたの?

ふうん。そうなんだ…


尚哉の返事はそんな感じだけれど、瞳は真っ直ぐこちらに向けられている。

他愛ない話でも、ちゃんと理解しようとしてくれるのがわかる。


聞き上手なのだ。昔から。



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