Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
奈緒子が自分の身体を擦り付けるようにして、二人の身体がピタリとくっつく。
「いい匂いだね…なんの匂いなの?」
尚哉は身体を折り曲げ、奈緒子の耳元で訊く。
「エルメスの『ナイルの庭』。
私、大好きなの…」
帰り際、奈緒子は、化粧室で自分の首筋にそれをつけた。
尚哉は、そのほのかな甘い匂いに気付いたのだ。
「奈緒子っぽくて、いいよ」
尚哉からは少し汗の臭いがする。
その中に奈緒子は、草の搾り汁のような匂いを嗅ぎ取った。
それは、奈緒子の動物的な本能を刺激する。
今夜は、尚哉がスーツで来るのだからと、奈緒子もシフォンの黒いブラウスに、オフホワイトのタイトスカートを合わせてきた。
ブラウスは、胸の辺り一面に小さなクリスタルビーズが散りばめていて、とても愛らしい。
細身で色白の奈緒子はそんな格好がよく似合う。
とても31歳には見えない。
通勤はパンツスタイルだけれど、
尚哉と出掛ける時は、フェミニンな服装を心掛けた。
彼は女の子のカジュアルな格好より、こういう方が好きだと奈緒子は思ってる。
それは、2年前、奈緒子が誘って映画を観に行った時から始まって、こうして二人きりで会うようになってから少しずつ分かった。