Breathless Kiss〜ブレスレス・キス


奈緒子が自分の身体を擦り付けるようにして、二人の身体がピタリとくっつく。



「いい匂いだね…なんの匂いなの?」


尚哉は身体を折り曲げ、奈緒子の耳元で訊く。


「エルメスの『ナイルの庭』。
私、大好きなの…」


帰り際、奈緒子は、化粧室で自分の首筋にそれをつけた。


尚哉は、そのほのかな甘い匂いに気付いたのだ。


「奈緒子っぽくて、いいよ」


尚哉からは少し汗の臭いがする。


その中に奈緒子は、草の搾り汁のような匂いを嗅ぎ取った。

それは、奈緒子の動物的な本能を刺激する。


今夜は、尚哉がスーツで来るのだからと、奈緒子もシフォンの黒いブラウスに、オフホワイトのタイトスカートを合わせてきた。


ブラウスは、胸の辺り一面に小さなクリスタルビーズが散りばめていて、とても愛らしい。


細身で色白の奈緒子はそんな格好がよく似合う。

とても31歳には見えない。


通勤はパンツスタイルだけれど、
尚哉と出掛ける時は、フェミニンな服装を心掛けた。


彼は女の子のカジュアルな格好より、こういう方が好きだと奈緒子は思ってる。


それは、2年前、奈緒子が誘って映画を観に行った時から始まって、こうして二人きりで会うようになってから少しずつ分かった。



< 107 / 216 >

この作品をシェア

pagetop