Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
逢った時の、瞳の瞳孔の開き方が違う。
ジーパンなんかだと、ふーんみたいな
感じで素っ気ない、と思う。
尚哉は『そんなことねえよ』と否定するけれど。
下着もいつもと違う。
奈緒子は冷え性だから、普段は綿100パーのお臍辺りまでくるパンツを履くのだけれど、尚哉と逢う時は、ツルツルしてて、華奢なレースの付いた小さなパンティを着用した。
いつでも『その時』が来てもいいように。
ずっと前から、二人の間で「恵也」の名前は禁句のようになっていた。
夜の公園を元町方面に歩くうち、大きな階段に辿り着いた。
この上には人形の家に通じる歩道橋がある。
腕を組んでいると階段を登りにくいから、二人は自然に絡めた腕をほどき、自然に手と手を繋ぐ。
恋人同士のようにじゃれ合う。
奈緒子はぴょんぴょん飛び跳ねるようにして、階段を登る。
ほろ酔いで足元がふわふわしていた。
階段を登り切ると、樹木の生い茂る散策路に人影はなかった。
「ねえ、尚哉」
歩きながら、奈緒子は呼び掛けた。
「キスしたーい!」
小さな子供がねだるように、無邪気に言って、くるりと身体の向きを変えた。
ふわり、と白い羽根のようにスカートの裾が広がる。