Breathless Kiss〜ブレスレス・キス


「わーい!お父さん、ありがとう!」


奈緒子は、はしゃいで父の小柄な背中にしがみついた。


「奈緒ちゃんだって、おしゃれしたいもんな、うん」


娘に揺さぶられながら、父は満足そうに頷いた。




歌織も他の友達も、
「父親なんか大嫌い」と言う。


「分からずやで、頑固で、不潔だし、ケチだし、自分勝手で、くさいし」



奈緒子は全然そんなことなかった。

でも、皆に合わせて「そうだよね」と言って笑っていた。




そんな優しい父のおかげで、ゲット出来たお気に入り。



奈緒子には目当ての男などいないけれど、夏祭りの夜だ。




(可愛い浴衣を着て歩いていれば、何かいい事がありそう…!)



ウキウキしながら、歌織との待ち合わせ
場所に向かった。



「奈緒子〜遅ーい!」


浴衣姿の歌織は、頬を膨らませる。


「え?時間ピッタリだよ」


奈緒子が目を丸くすると歌織は言い放った。


「約束の5分前に着くのが、マナーなの!」


「……ゴメン」



大人しい奈緒子と違い、歌織は口の減らないところがあった。


授業中でも、前の席の男子生徒とくっちゃべっては注意され、
「ごめんなさーい!」と舌をペロリと出してウケを狙うような、先生からしてみればちょっと面倒臭い女生徒だった。



一年の時から歌織の顔は知っていた。

三度くらい会話したこともあった。


三年で同じクラスになって正反対の性格が良かったのか、親友になった。


でも、歌織は成績は中の下くらいでも、ヤンキーじゃなかった。



奈緒子たちの学年では、そんな突っ張った子はいなかった。


ましてや、学年で常に10位以内に入る成績の藤木尚哉がそうであるわけがない。


ヤンキーだったのは、尚哉の年子の兄。

公立高校に通う藤木恵也(ふじきけいや)だった…




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