Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
キスするようになってから、休日の土日、どちらか逢うようになっていた。
恋人同士みたいに。
ショッピングに行ったり、尚哉の車でドライブしたり。
今週末もそのつもりでいたのに。
尚哉は少し困ったように、
笑みを浮かべた。
「あ、ゴメン…
急に広島から来ることになってさ」
奈緒子と手をつないだまま、尚哉は言う。
主語は省いて。
「あ。そうなんだ…」
大きくてしなやかな尚哉の手をずっと独り占めには出来ない現実。
酔いのせいか、奈緒子は一瞬、泣きそうになってしまうが、堪えた。
まだ帰りたくなくて、奈緒子は尚哉の腕を引いた。
「ねえ〜。カラオケ行きたいな!
社員旅行の時、結局、カラオケスナック行かなかったじゃない」
媚びた口調で誘う。
「行かなかったんじゃなくて、いけなかったんだろ?
奈緒子が酔っ払い過ぎて。
行ってもいいけど、少しだけね。
終電乗り遅れないようにしないと」
今度は笑顔で応えてくれた。
奈緒子は胸を撫で下ろす。
尚哉は、いつも奈緒子の願いをきいてくれる。
奈緒子だって大人の女性だから、無理なお願いなどしない。
小娘みたいに、深夜、迎えにきて、とか。帰りたくない、とか。
だからたまに願いを却下されると、
仕方ないとわかっていても
とても悲しかった。