Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
週一度、木曜日午後7時からのヨガスクールに一緒に通わないかと奈緒子を誘ってきたのも歌織だ。
元旦那からは慰謝料も養育費も貰わない代わりに、二度とチカには、会わせないという。
センスはともかく、服装も髪型にもさりげなく流行を取り入れる。
(優雅なシングルママよね…)
「へええーそうなの。
チカちゃん、可愛いねえ。今時の小学生ってマセてるよね」
奈緒子はそう言ってにっこり微笑む。
それ以上は、何を言っていいのかわからなかった。
歌織の娘、チカには、前に自宅へ招かれた時に1度だけ会ったきりだ。
チカはその時まだ3歳で、保育園の空き待ちをしている、と歌織は言った。
(だから、なかなか働けなくって、と言い訳するみたいに)
どうやら父親似のチカは、人見知りしない性格のようで、奈緒子を
「お姉ちゃん」と呼び、お気に入りの
熊の縫いぐるみや絵本を見せてくれた。
それ以来、たまに写真で見せてもらう程度だ。
一人っ子の奈緒子には、甥も姪もいない。
だから、8歳になった歌織の娘が、
指で毛糸を編む姿がうまく想像出来なかった。
子供嫌いというわけではないけれど、子供というものがどんな生き物なのかよくわからない。
微笑ましい話題ではあるけれど、
『動物園のライオンに赤ちゃんが生まれました』などというニュース同様
正直言って、あまり興味の持てる
話ではなかった。
昼時のあまり広くない店内は、混雑していてほぼ満席だった。
頭上のスピーカーからは、会話の邪魔にならない程度のカンツォーネが流れる。