Breathless Kiss〜ブレスレス・キス


食事時以外はカフェになる洒落たこの店の客は、女性が圧倒的に多かった。


女性達は食事が終わっても、お喋りに興じ、なかなか立ち上がらない。


それでも、ウェイトレス達は嫌な顔もせず、客の空いたグラスに水を満たしてくれるから、奈緒子達はこの店によく訪れていた。


「私もねー。若いうちに再婚したいな。子供だって小さいうちのが、新しいパパに馴染んでくれそうだしさ」


カルボナーラを咀嚼しながら、歌織がいう。

『再婚したい』これは彼女の口癖で逢うたびに一度は聴かされた。

奈緒子はお愛想で笑う。


歌織がどこまで本気なのかもわからない。男の容姿にこだわりがあり、お気に入りの俳優やアイドルの話をよくする。

このイタリアンレストランでも、着席するなり、若いウェイターの一人がかっこいい、と奈緒子に耳打ちした。


どこへいっても目ざとく自分好みの男を見つけるのは、もはや歌織の才能と言っていい。


二年前、奈緒子の勤務先に中学の同級生だった藤木尚哉が広島から異動になり、再会したことを歌織に話すのは、ちょっと億劫だった。


中学三年の時、歌織は尚哉に夢中だったから、逢う機会を作って欲しい、などと言われたら面倒だと思った。

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