Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
自分にだって恋人などいないのに、人のことに構っている余裕はない。
もし、歌織がそんなことを言い出したら、悪いけれど適当にはぐらかしてしまおうと思っていた。
けれども、実際に蓋を開けてみれば、
『へえ。あの藤木尚哉君が。
懐かしいね』
と言っただけで意外にも歌織の反応は薄かった。
中学時代、歌織は半年に一度は好きな男が変わる、熱くなりやすく覚めやすい女の子だった。
それは大人になっても、あまり変わらなかったらしい。
1番最初に『尚哉には、広島に彼女がいる』と奈緒子が話したことも、歌織にとってはしらける情報だっただろう。
奈緒子がしょっちゅう、彼女持ちの尚哉と遊んでいることを歌織は知っている。
…キスをする仲になったことは、
言えなかったけれど。
今週の金曜の夜、尚哉の出張先の京都で彼と落ち合う、という話をすると、さすがの歌織も眉をひそめた。
「…奈緒子お。それ、大丈夫なの?
尚哉って婚約者いるんでしょ?
京都で変な関係になったりしない?
いつまでも若いわけじゃないよ。
寄り道してないで、ちゃんと本命、探しなよ〜」