Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
歌織がピザをつまみながら、眉間に皺を寄せて言った。
歌織の『婚約者』という言葉に軽く、彼女の意地の悪さを感じて、奈緒子はムッとする。
「婚約者じゃないから」と軽くいなし、続ける。
「嫌だあ。今更そんなことになるわけないじゃない。
大丈夫!京都は別々の部屋に泊まるし。それよりお土産、生八つ橋でいい?」
奈緒子はボロネーゼをフォークに巻きつけながら、無邪気を装っていう。
(…寄り道…かあ。
人からすれば、そんな風にしか見てもらえないんだろうな…)
少し哀しくなる。
そんな奈緒子の気持ちなど、
歌織は微塵も気付かない様子だ。
「うん。瓦煎餅みたいな固いやつじゃなくて、ナマ、のほうね。
チカも生八つ橋大好きなの。
覚えてない?私、中学の修学旅行の時、間違えて固いの買っちゃったの。
店のバイトの子で、京都出身の子がいて、京都では固い方が好きっていう人多いんですって言うの!
信じらんないよね〜!」
そんなに可笑しい話でもないのに、歌織は、あっはっはっ豪快に笑う。
母は強し、という感じだ。
歌織のこれまでの人生の体験が、彼女を強く逞しくしたのだろう。