Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
「でも、いいなあ〜
男と2人きりで京都なんて。
羨ましい!
私なんて男友達の1人もいないし。
寄ってくるのは、チカとチワワのパピーだけだし〜」
歌織は目を剥いて頬を膨らませる。
元々ポッチャリタイプだったのに、チカを生んでから、10キロも肥ったという。
彼女がそんな表情をすると『おデブ』がウリの人気女お笑い芸人にそっくり…と奈緒子は思う。
歌織はダイエットしなきゃ、と口癖のように言うが、これもどこまで本気かわからない。
ここのパスタは確かにボリュームは控えめなのだけれど、昼には充分だ。
「カルボナーラのランチセットだけは物足りないし、ピザも食べたいから」
歌織はそう言い、マルゲリータも一枚オーダーした。
外は汗ばむ陽気だというのに、その旺盛な食欲には目を見張る。
「いいじゃない。チカちゃんがいるだけで上等よ。
私なんて子供どころか、結婚もしてないし。一生淋しい人生かも…」
奈緒子が自嘲気味に言うと、歌織の目にさっと優越感のようなものが浮かんだ。
「まあね。奈緒子お、子供だけはね、
大変だけど、絶対に生んどいた方がいいって。
未来に繋がるからねえ。
子供の為に頑張ろうって思えるしね!」
少し得意げ言うと、ナイフに突き刺したミニトマトを、ぱくりと口の中に放り込んだ。