Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
「ゴメン…実はチカがね、朝から熱があるのよ。
やっぱり、調子が悪いみたいだから、
帰るね」
携帯を握り締めながら、歌織は済まなそうな顔をした。
「えっ!そうだったんだ。大変ね。
今日は付き合わせちゃってごめん」
「いいよ。今は、おばあちゃんが見ててくれてるから」
2人で吊り革に捕まり、
電車に揺られる。
やがて、奈緒子が降りる駅に着いた。
「じゃあ、チカちゃん、お大事にね」
奈緒子は笑顔で手を振り、電車の戸口に向かう。
「あ、奈緒子!」
「何?」
歌織の呼びかけに奈緒子は振り向く。
その時、後ろから続いて降りようとする若い男とぶつかりそうになった。
歌織は、口元に手を当て、叫ぶように言う。
「もう素直になりなよ!
欲しいなら、欲しいって堂々と。
自分を偽ることないよ!」
「えぇっ?何?」
歌織の言葉がよく聞こえないまま、人波に押され、奈緒子は駅のプラットホームへと吐き出されてしまった。
ーー…ソースの匂いがする……
夢に匂いがあるんだ……
脳のどこかでそんなことを思いながら、だんだんに覚醒していく。
現の世界に戻っていくうちに奈緒子は
(トイレに行きたい…)と感じた。
目覚めると、自室のベッドの中にいた。