Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
焼きそばの匂いと16歳の夏。
目覚まし時計はもう朝9時だった。
昨夜は『タイタニック』のDVDを観ながら350mlの発泡酒を2本も飲んでしまった。
「ああ…もう、朝かあ…」
気怠かった。
なんの予定もない日曜日。
尚哉は今頃、どこかのベッドの中で彼女と裸で寄り添っているのだろう。
当たり前だ。
久しぶりに逢う恋人同士が、
睦み合わないわけがない。
「はあ………」
溜息が出る。
奈緒子はベッドから降り、トイレに向かった。
雑然とした室内。
父も母もすでに店へ出勤し、3LDKの団地の我が家には誰もいなかった。
ダイニングテーブルには、朝刊と朝食のソース焼きそばの皿がラップに包まれ、置かれていた。
夢に出てきたソースの匂いの正体はこれだ。
「もお…」
奈緒子は苦笑する。
奈緒子が幼い頃から時々、母は朝ご飯には相応しくないようなものを用意する。
牛丼やトンカツとか。
とっくに慣れっこだけれど、まだ食欲が湧かない。
居間のソファに腰掛け、ぼんやりする。
リモコンをかざし、テレビを点けた。
なんの得にもならないワイドショー。
数人のタレントが騒いでいるだけの。
こういうのは、人の声を聴くだけの番組だ。それだけで、少し安心する。
久しぶりに、恵也の家にいる時の
ことを夢に見た。