Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
ーー嫌っ!
奈緒子はそっぽを向き、
頬を膨らませた。
その頃の奈緒子は「イヤ」と「やだあ」を連発していた。
そして、なぜか恵也は奈緒子のこの口癖を好むところがあった。
ーーじゃ、クーラー切る。
手でもいいから!
お願い、奈緒子ちゃん〜
甘えて機嫌を取るような口調とは裏腹に、恵也は奈緒子の右手を強引に掴んで、そこに導く。
ーーあんもう、奈緒子、疲れたんだけど!
腹を立てたふりをしながらも
奈緒子は従順にする。
…こんな会話はいつもしているのに。
不意に、台所に立つ尚哉の後ろ姿が
奈緒子の脳裏に浮かんだ。
恵也を愛撫しながら、虚しさが襲う。
今日はお金がなくて、寄り道せず、学校から真っ直ぐにこの家に戻った。
恵也は部屋に入るとすぐにクーラーのリモコンをかざし、「あっちー死ぬ!」と騒いで、汗で濡れた白いTシャツを脱ぎ捨てた。
そして、奈緒子を急かし、ベッドの上で両脚を開かせた。
ーーんもお、ゆうべも何度もしているのにぃ…
奈緒子の言葉に、荒い息遣いの恵也は、何も応えない。
されるがままになりながら、奈緒子は思い返す。
……今日やったこと。
朝寝坊してしまったから30分、遅刻して恵也とともに登校した。
朝食は学校へ行く途中、恵也がコンビニで買ってくれた。
ツナマヨーズのお握り。
ミックスサンドウィッチ。
コーヒー牛乳。
1人で全部食べるつもりだったのに、ハムが入った方のサンドウィッチを恵也は
「もーらいっ」と言ってさらっていってしまった。
ーーひど〜い!
恵也の頭を叩く真似をして、仕方なく卵の方で我慢。