Breathless Kiss〜ブレスレス・キス

尚哉のベースギター。

この音を聴くたび、奈緒子は嬉しくなる反面、少し憂鬱になった。


(もしかしたら、1階にいる尚哉にHしてる声とか、聞かれちゃってるのかも…)


単純に恥ずかしかった。


家に誰かがいる時は、音楽をガンガンにかけてしているし、気をつけてはいるつもりだったけれど。


恵也が忌々しげに眉を顰める。


ーー…うっせえベース……
下っ手くそだなあ!


恵也は、弟がバンドを組んでいるのが面白くないみたいだった。

恵也はなんの楽器も弾けなかった。


尚哉は、週3回だけファミレスの厨房で盛り付けのバイトをしていると、
前に恵也が言っていた。


奈緒子は身体の向きを変え、恵也の色白の胸に寄り添った。


ーーね。焼きそばを食べたら、尚哉、バイトに行くのかな?
あ。塾かな?大学進学希望だもんねえ。奈緒子とは、全然違うよね。
ついこの間まで、一緒の教室にいたのにさあ。


奈緒子の言葉に、恵也はさらに露骨に嫌な顔をした。


ーーざけんな。金もねえのに、
何が大学だよ。寝ぼけんな。


手を伸ばして、床にあった煙草とライターを手繰り寄せた。


恵也が尚哉になぜか批判的なのは、いつものことだ。



行為が終わった後は、いつものように2人でベッドに腰掛けて煙草を吸った。


ようやく満足した恵也は、リモコンをかざし、物憂げに鼻と口から紫煙を吐く。

もう彼には、一雫の性欲も残っていないはずだ。



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