Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
こんな家で、弟の尚哉は、
高校生活を送っていた。
風呂を借りた濡れ髪の奈緒子が尚哉と廊下で出くわしたとしても、お互いそのままちょっと会釈めいたことをするだけで話なんかしなかった。
それは奈緒子が出入りしている間、
ずっとそうだった。
尚哉は、奈緒子と恵也が密室で何をしているかわかっていたはずだ。
毎日のように、抱かれていることを。
中学時代、奈緒子は上背だけはあったけれど、中身はクラスでも子供っぽいほうだった。
朝起きた男の子の身体がどうなるのかなんて、同級生たちとの会話で赤面していた。
そんな奈緒子を尚哉は知っている。
だから、お互いに照れ臭かった。
あれから月日が経ち、31歳になった奈緒子は思う。
あの時期、18歳の恵也も彷徨っていた。
自分が熱中出来る何かを探し求めていた、と。
奈緒子以外の。
バイク以外の。
そして、その夏、サーフィンを教えてくれる女に出逢い、恵也の世界は一変する。
愛し合っていると思っていたのは、一瞬の幻だった。
恵也は身体だけ1人前の、
本当に無責任な子供だった。
だから、奈緒子を要らなくなった玩具のようにあんな場所に置き去りして、逃げていってしまった。
今思うと、いい加減な避妊であれだけ性行為に明け暮れていたのに、妊娠しなかったことが救いだ。
立ち上がり、汚れた空の焼きそばの皿を洗いながら、奈緒子は苦笑する。
「それって、やっぱ、
恵也の本性だったんだよね…」
その結論に達したのは、ずっと後。
奈緒子が大人になってからのことだ。