Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
「尚哉くーん♡」
歌織が満面の笑みを浮かべながら、彼に手を振る。
浴衣、見て見て♡というふうに何度もセミロングの髪を右耳に掛ける仕草をした。
うわ…一歩間違えば、武田鉄矢なのに…
危険…
歌織の横で、
奈緒子は少しげっそりする。
でも、可愛いつもりで歌織はやっているのだから、そんなこと思っちゃ悪い。
「よっ」
尚哉がこちらに向かって軽く手を上げる。
彼は目が大きくて童顔だ。
だから嫌味がなく、親しみやすい。
すらりと背の高い尚哉は、一年生から三年間、クラス委員を務めるしっかり者でもある。
歌織に腕を掴まれ、引き摺られるみたいにして奈緒子も尚哉のそばに歩み寄る。
「一人なの〜?」
喧騒の中、歌織が鼻声で尋ねた。
「あ、いや」
彼は一瞬、視線を後ろの雑木林にやった後、フッと笑って首を横に振ってみせた。
中学生のくせに、大人びた仕草だ、と奈緒子は思った。
「藤木君、ブルーハワイ好きなんだあ!歌織も好き!美味しいよねー!」
歌織がりんご飴片手に飛び跳ねるようにして言うと、尚哉はにっこりと笑って言った。
「一口、食べる?」
黒い瞳がいたずらっぽく光る。