Breathless Kiss〜ブレスレス・キス


昼のメニューは野菜炒めと白飯、中華スープ。
それに、なぜか餃子が2個ずつ添えられていた。


いかにも残り野菜で作った感じだけれど、賄いなのだから仕方ない。
肝心の味は、飛び切り美味しいのだから気にしない。


細い癖によく食べる奈緒子の皿は、
野菜炒めが大盛りだった。



「お父さん、いくらなんでも
ちょっとコレ多すぎるって〜!」

奈緒子が喚くと、

「そうかあ?足りねえって文句言うかと思った!」


父は目を丸くしてわざととぼける。
母はにこにこと笑う。


そう言いつつ、奈緒子は結局、全部たいらげてしまった。



自営業の両親と会社勤めの奈緒子は、
生活のサイクルが全く違うから、
家族3人がまともに揃うのは、こんな時だけだ。



奈緒子は両親が喧嘩をしているところを、ほとんど見たことがなかった。



母は、奈緒子が幼い頃から度々言った。


「お父さんは本当に優しい人。
だから、お母さんも優しくなれる。
奈緒子も旦那さんには、顔やお金じゃなく、優しい人を選びなさい。
それが1番だから」


店が大変な時も。

奈緒子が反抗期だった時も。

いつでもどんなことでも相談し合う。


奈緒子にとって、穏やかで仲睦まじい2人は理想の夫婦だ。


「あんのん亭」は両親がコツコツと積み上げてきた汗と努力の結晶で、娘の奈緒子と同じくらい大切な宝物だ。

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