Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
10代の頃は、家業がラーメン屋だということが恥ずかしかった。
でも、そのおかげで会社の面接で、人事部長の心を掴むことが出来たのだから、今は感謝の気持ちで一杯だ。
5時まで休憩だった。
両親は、夜の仕込みをしてから、奥の和室で横になり、休憩するのが習慣だ。
「私、ちょっと、
ユニクロ見てくるね!」
奈緒子は、ヘアクリップでまとめていた髪をほどきながら、言った。
「それなら、奈緒ちゃん、
お父さんが通勤で使ってる自転車乗っていけよ!おもてにあるよ」
父の言葉に奈緒子は「ううん、いい」と答えた。
歩いて20分ほどの距離だった。
「天気いいし、散歩がてら、歩いて行くよ」と付け加えた。
ガラス扉を開けた瞬間、外の蒸された熱気がむわっと店内に押し寄せた。
交通量の多い、桜並木の道を歩く。
ーー今頃、尚哉は何してるのかな…
ふと、奈緒子は思う。
1年ほど前から、奈緒子が店の手伝いをするようになったのは、尚哉のせいだ。
(と言っても、ネイルサロンで手入れをしている爪先がボロボロになっては嫌だから、奈緒子がやることは、レジとオーダー、空いた器を下げるくらいだけれど)
様々な食物の臭いが混じる厨房が苦手でこれまで、手伝いなどしたことがなかったのに。
尚哉と逢えない日と、パートさんの突発休が重なった時、困っている両親に手伝いを申し出たのが、きっかけだった。
淋しさを紛らわすためには、スポーツクラブやエステに行くよりもずっと良かった。