Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
いつの頃か奈緒子も、彼らのその時の心痛を想像出来るようになった。
女の子だから、妊娠の危険だってあったし、夜も眠れなかったのではないかと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
そして、今。
父も母も言葉にはしないけれど、娘の幸せな結婚を願っているはずだ。
奈緒子は両親の深い愛情に感謝しているから、時々、心苦しくなる。
恋人のいる尚哉に想いを寄せている自分。
未来のない片恋。
もう31歳。
今が楽しければ良いという年齢じゃない。
そんなことを考え出すと自分がとてつもなく嫌になってしまう。
どうしたいのか分からない。
どこかで、何かを間違えたのかもしれない。
今になって、本当の初恋の相手は、尚哉だったような気がするのだ。
それなのに、恵也が突然現れ、奈緒子は身も心も奪われてしまった。
結局、精神年齢は全く成長せず、
恵也と付き合っていた頃のままなのかもしれない…
恋に刺激を求め、平穏な結婚など出来ないのかもしれない。
「あっ…」
商品棚の前で、見知らぬウエーブヘアの女と肩が触れ合った。
「ごめんなさい」
女が頭を下げ、「こちらこそ」と奈緒子も返し、少し距離をとる。
「これ、いいんじゃない!
パパにすごく似合うよ!」
彼女のすぐそばに、ベビーカーを押す夫らしき背の高い男性が立つ。